「不眠症には、どの漢方薬がいいですか?」
「更年期には、この漢方薬ですよね?」
「胃もたれなら、何を飲めばいいですか?」
漢方薬について調べていると、
「この症状には、この漢方薬」という情報をよく目にします。
もちろん、病名や症状は漢方薬を考えるうえで大切な情報です。
でも漢方では、病名だけを見て漢方薬を決めるわけではありません。
同じ病名がついていても、その人によって体の状態が違えば、選ぶ漢方薬も変わることがあります。
たとえば、同じ「不眠」でも違います
一口に「眠れない」といっても、
・なかなか寝つけない人。
・寝つくことはできるけれど、夜中に何度も目が覚める人。
・朝早く目が覚めて、そのまま眠れなくなる人。
・夢が多く、眠った感じがしない人。
・イライラして頭が冴えてしまう人。
・疲れ切っているのに眠れない人。
みんな「不眠」という言葉では同じですが、実際の状態はかなり違います。
漢方では、「眠れない」という症状だけでなく、食欲、胃腸の状態、疲れ方、冷えやほてり、精神的な緊張なども合わせて見ていきます。
だから、同じ不眠でも、全員が同じ漢方薬になるとは限りません。
同じ「胃もたれ」でも違います
胃もたれも分かりやすい例です。
・食べすぎたときだけ胃が重くなる人。
・普通の量しか食べていないのに、いつも胃に残る人。
・脂っこいものを食べたときに特にもたれる人。
・ストレスがかかると胃がつかえる人。
・胃もたれだけでなく、げっぷや胸焼け、お腹の張りもある人。
これも全部「胃もたれ」ですが、同じ状態とは言えません。
だから漢方では、「胃もたれがあるから、この漢方薬」ではなく、
「どんな胃もたれなのか」を見ていきます。
漢方でいう「証」とは?
漢方では、その人の今の体の状態を考えるときに「証(しょう)」という言葉を使います。
・体力はあるのか、ないのか。
・冷えているのか、熱がこもっているのか。
・不足しているものがあるのか。
・余分な水分などが停滞しているのか。
そうした情報を組み合わせて、現在の状態を判断していきます。
日本東洋医学会も、漢方では症状や体質などから状態を捉え、それに合わせて処方を選ぶ考え方を示しています。
そのため、同じ病名でも漢方薬が違うことがあります。
逆に、一見まったく違う症状でも、漢方から見ると同じような体の状態が背景にあり、同じ漢方薬が使われることもあります。
これを漢方では、同じ病気でも治し方が違う「同病異治」
反対に、違う病気でも同じ治し方をする「異病同治」
と呼びます。
だから、漢方相談ではいろいろなことを聞きます
「胃が痛いのに、なぜ便のことまで聞くの?」
「眠れない相談なのに、食欲まで聞くの?」
初めて漢方相談を受けると、不思議に感じるかもしれません。
でも、これは関係のないことを聞いているわけではありません。
病名や一つの症状だけでは分からないその人全体の状態を知るためです。
・食欲や胃腸の調子。
・便通。
・睡眠。
・疲れ方。
・冷えやほてり。
・汗のかき方。
・むくみ。
そして舌の状態など。
そうした情報をつなぎ合わせることで、「今どこが崩れているのか」を考えていきます。
「この病気にはこの漢方」が間違いというわけではありません
ここは少し誤解されやすいところです。
漢方薬にも、それぞれ効能・効果や使われる病気・症状があります。
ですから、「この病気にこの漢方薬を使う」
という考え方そのものが間違っているわけではありません。
ただ、病名が同じなら、誰にでも同じ漢方薬が合うとは限らない。
病名を見る。でも、病名だけでは決めない
漢方と聞くと、
「○○病に効く漢方薬を探す」
というイメージを持つかもしれません。
でも漢方では、病名を確認したうえで、
その人に今どんな症状が出ていて、体全体がどんな状態なのか
を見ていきます。
だから同じ不眠でも漢方薬が違う。
同じ胃もたれでも漢方薬が違う。
同じ更年期の不調でも漢方薬が違うことがあります。
漢方薬は、「病名を見ない薬」ではありません。
でも、「病名だけで決める薬でもない」。
この違いを知っておくと、なぜ漢方相談では一見関係なさそうなことまで詳しく聞くのか、少し分かりやすくなると思います。
